作曲家・富山優子 音に言葉

日々之音楽・思考・言葉

♪近くで腕を伸ばした景色が幾たびもよみがえる~よみがえるピアノ

実家のピアノを使うことになりました。
今までは自分のアップライトピアノを使っていました。
アルバム『僕らの時代』は、自分のアップライトピアノで録音したものです。よく、「グランドピアノだと思った」と驚かれます。5年ほど前からお世話になっている調律師さんに、自分の好きなセッティングにしていました。今でも大好きなピアノです。

 

実家のグランドピアノは長年、調律をしていただけで残念ながらメンテナンスされたことはなく、おそよ30年の時間が経って固い音になっていました。鍵盤が軽すぎて簡単に音が出るかわり、バシャーンとヒステリックな音がします。
メンテナンスは音の調律と違い、固くなったハンマーを柔らかくほぐしたり、がたついたアクション部分を直したり、メカニックな部分を直すことも含みます。このピアノを主に自分が使うなら、まずはこのハンマーの固さと軽すぎるタッチをなんとかしたい・・・それには一度ちゃんとしたメンテナンスが必要だろう・・・そこで、おなじみの調律師さん、Kさんの登場です。(本によっては、調律師ではなく”調律家”と表記しています。音楽家、みたいな感じでしょうか)
Kさんは、なんていうんだろう・・・この人は本当にピアノが好きなんだなぁという印象です。いろんな音色を知っていて私のつたない要求にも快く答えてくれ、ピアノに関するいろんなことを私に教えてくれます。今後私がピアノのメカニック部分について詳しく語り出したら、大抵はKさんからの受け売りか影響を受けて読んだ本からの知識です。笑

 

11月29日
メンテナンスは一日をかけて行うのだが、朝から晩までやっても作業量が多すぎて終わらない。鍵盤部分を引き取って事前作業をしたい、との申し出がありました。鍵盤部分を引き取る…?

鍵盤部分を引き出した状態

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ピアノ鍵盤88鍵すべてについているハンマーの一つ一つ、カチカチになった表面を剥いて針で柔らかくするのだそうです。気が遠くなる作業です。


アクション部分のアップ

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めかめかしい外見にドキドキ


他にも、鍵盤部分の下に敷いてある小さな紙を一つ一つ取り替えたりと、気が遠くなる作業は続きそうな気配なので、あとはおまかせしてそっとその場を去りました。
家での事前作業が終わると鍵盤部分は毛布にくるまれ、車に載せられてしばしのお別れです。
あとには、鍵盤部分がからっぽになったピアノが残りました。

 


12月4日
メンテナンス日。Kさんは朝10時前から作業を開始しています。15時頃、外出先の私にショートメールが届きました。
「まだまだですがとても良い!」
Kさん、なんてキュートなんだろうと思いました。真面目なピアノ職人風の見た目からは想像もつきません。
あの、音に厳しいKさんが良いと言っているんだから、よっぽどに違いありません。一体どんな音になっているんだろう??こちらのテンションも昼から既にMAXです。

19時過ぎに帰宅し、鼻息も荒く少し試弾しました。

 

全然違う楽器になっていた。

ピアノに必要な鍵盤の重さがあり、低音域はたっぷりと響き、中音域はあたたかく円い。
超好み。
胸がじんとしました。
私がこのピアノを弾き始めた頃には、こんな音がしていたのだろうか。
子供時代の思い出が、長い時間をまたいで胸の中に再びすとんと落ちてきたような、そんな錯覚に陥りました。

 

”いい音”ってなんだろう、ってよく思います。
それは昔自分が聴いたことのあるなじみ深い音なのかもしれないし、幸せな記憶と結びついた音なのかもしれないし、憧れの演奏家が出す音なのかもしれないし、
その人によって”いい音”って全然違うんだろうな。
よみがえったピアノは、私の”いい音”がしていた。

結局、Kさんが帰られたのは夜11時近く。常人をはるかに凌駕した体力と集中力に、心から感服いたしました。本当にありがとうございました。

興奮しすぎて、Kさんとの写真を撮り忘れた…また次回とろう。
あれから少しの時間でも朝も夜もピアノに触ってニヤニヤしていますが、また気になることが出てきたので、次はもっともっと自分の好きな音にしてもらおう。これから沢山弾いてあげよう。むかし弾けなかった曲も弾いてあげよう。むかし弾けたけど弾けなくなってる曲も、がんばってまた弾けるようになりたい。笑

 

今ごろになって、ピアノが大好きです。

 

 

沢山の気持ちが、やっと書けた。