作曲家・富山優子 音に言葉

日々之音楽・思考・言葉

短編 「さよなら少女」

"The singing robotは
少女に別れを告げるため、やって来る。"


少女は誰にも可愛がられず、淋しかった。
近くには友だちもいなかったので、図書館の本を読み、たいくつすると空をながめた。
空の青さと流れる雲の速さは、毎日ちがって見えた。
草むらにねころんでいると、知らない音楽がきこえてきた。それは少女にだけきこえる音楽だった。
小さな声で、音をなぞるように少女は歌った。少女にだけきこえる、ちいさな声だった。


"The singing robotは、ぎこちなく歌いながら
少女に別れを告げるため、やって来る。"


ピアノとハープがくっついたり、離れたりしながら遊んでいる。
少女はその音楽をどう書きあらわせばよいのか、わからなかった。
The singing robotは、たまに同じ音で歌い、よく調子っぱずれな音を出した。
「この子、壊れてるわ」さびついた部品を指さしながら、少女はそれをかわいそうに思った。
なにしろThe singing robotが地球に来てから、およそ250年が経つという。

The singing robotがあまりにも調子っぱずれなので、少女は次第にイライラしてきた。
「どうして同じように歌えないの」
いつか少女がそういわれたように、つい大声を出してしまう。
The singing robotは黙りこみ、少女が静かに本を読み始めてしばらくすると、また同じように歌いだす。
少女はため息をつき、読みかけの本にしおりをはさんで閉じると、The singing robotの調子にあわせて歌った。
それはでこぼこで、へんてこなビープ音のようなものだったので、少女は歌いながらくすくすと笑い出してしまった。
The singing robotは、時折しゃっくりをするみたいにつっかえながら、低くうなったり、高い音を出したりする。そんな音楽はきいたことがなかったけれど、もしかしたら地球ではないどこかにはあるのかもしれない、と少女は空をみあげた。

「わたしだけで歌うより、ずっとすてき」
少しだけ、そんなふうに思った。


"The singing robotは、ぎこちなく
少女に別れを告げた。"


―――さよなら少女―――

 

 

 

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