作曲家・富山優子 音に言葉

日々之音楽・思考・言葉

5月22日 トッド・ラングレン東京公演@すみだトリフォニーホール

トッド・ラングレンの日本公演。まさかあの、神に等しいジャズピアニストのブラッド・メルドーが、神に等しい完全ソロライブを行ったすみだトリフォニーホールで見られるとは思わなかった。(2003年ライブ盤 "live in TOKYO" 収録)

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生トッドは人生初

 

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吹き抜けのクリスタルオブジェが美しいクラシックホール

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私はトッドを誰にも渡したくない。笑
他の人とトッドの素晴らしさを分かち合うことは出来ない。

一見開かれているように見えて、トッドは自分自身が大好きで、ひたすら自分のために音楽をやっているように感じる。自分のやりたいように振る舞い、叫びたいように叫ぶ。着たい服を着て、やりたいメイクをする。自分の好きなように音を扱い、多重録音では空間を全部、自分自身で埋め尽くす。そこには限りない自己肯定と屈託のなさがあり、宅録の孤独を通り越した全肯定っぷりには惹かれるしかなく、わたしだけで楽しみたくて人目から隠したくなってしまうのだ。

 

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バタフライ・メイク


ライブ中おもに映し出されていた有名な写真、プライヴェートスタジオでの1人多重録音中に、ギターをぶら下げてバンザイ&ダブルピースをするトッドの写真、あれこそが赤ん坊の全能感にも似たトッドの特徴をよくあらわしてるんじゃないだろうか。昨日は、まさにトッド様ワンマンショーを見させて頂いた二時間だった。

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シンプルなステージセット

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若き日のトッド(細い)



いつも他人の反応を気にかけていて目一杯サービスしてくれるポール・マッカートニーとは対照的だ。似てるけど正反対だ。ポールはいつも誰かのために曲を書き、リスナーにも親密に語りかけてくるけれど、トッドは自分が楽しむことが一番で、いつも自分が今最も興味のあることだけをやる。たぶんそう。自分自身を信じられることは大きな才能のひとつで、だからこそ見ている方は目が離せない。トッドがのびのびと振る舞うさまを、誰にも語りかけたり媚びたりせず好き勝手やるさまを、ただただ見させて頂きその才能に唸るのみ。ライブ前半にたたみかけられた初期の名曲の数々に涙しながら、いま自分が揺さぶられているこの感覚のことは、きっと誰にもうまく伝えられないだろうと思った。あまりにも個人的に表現するトッドの音楽を、あまりにも個人的に受け止めたことについて、今もこんなに字数を使ってなにひとつ言えてないのは、仕方ないことなのである。

 

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あまりにも個人的に表現すると、個人に伝わる。

そのことを実践しているトッドには、まさに天才の名がふさわしい。